きちんとした恋愛

きちんとした恋愛をしなければいけないのならば、せめて心の底から好きになれる相手とそうなりたい。

ずっと、そう思っていた。

そんな思いを満たしてくれる、運命の出会いがあるかも知れないと僕は思っていたんだ。

 

「あの……どこかで会ったことありませんか?」

 

心臓の鼓動がやけにうるさく聞こえる。

たった一言を発しただけで喉はからからになっていた。

女の子に声をかけることになれているわけじゃない。

それでも、この子には声をかけなきゃいけないんだと細胞さえもが僕に訴えかけていたのだ。

だって後ろ姿を一目見た瞬間に僕は恋に落ちていたのだから。

 

少女が振り返る。

ああ――やっぱり、僕たちはどこかで出会っていた。

 

「もしかして……お兄ちゃん?」

 

少女の口から言葉が零れ、僕はきちんとした恋愛を失った。